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魂の仕事人 魂の仕事人 第8回 其の三 photo
仕事は自分以外の誰かのために 背負うものが大きいほど頑張れる 人はいばらの道というけれど 俺には赤じゅうたんに見える!
  プロ野球選手時代の輝かしい「栄光の遺産」があれば、第2の人生を楽に生きられたはず。しかし石毛氏は48歳にして「独立リーグの創設、経営」という全く未経験の厳しい世界へ私財とともに身を投じていく。石毛氏を突き動かすものは何なのか? 石毛氏にとって、野球とは? 仕事とは? 誰のために、何のために働くのか──。
四国アイランドリーグ代表 石毛宏典
 
野球が好きだと感じたことも
楽しいと思ったことも一度もない
 

 僕にとって仕事とは何か? うーん……僕は今やってることをあまり「仕事」としてとらえてないからよくわかんないですね。

 昔から決して野球そのものが好きではなかったんですよね。プロ野球時代も野球を好きだとも、おもしろいと感じたこともなかった。楽しんでやったという記憶がないですから。

 子供の頃、遊びの延長で野球を始めて、学校の部活に入った。その理由も、農家だった実家の野良仕事など家の手伝いから逃れたいという一心で。一番遅くまで練習していたのが野球部だったんです。野球が好きだからじゃなかった。

 じゃあなんで30年以上も現役生活を続けてこられたかって? ……何だろうねぇ。何でもいいからこう、自分を変えたくて挑戦したいというものはあったかもしれませんね。野球部に入ったら先輩がおっかなくて説教食らう、ぶん殴られる、監督にもぶん殴られる、そういうものに対して、反発精神ていうんですかね。こいつらに言われたくねえ、同じこと2度も言われたかねえ、っていうのをエネルギーにして頑張ってこられた。だから好きでやってたわけじゃないんですが、どんなにつらくても逃げようと思ったことも、辞めようと思ったこともなかったですね。

 あとはとにかく「うまくなりたい」という一心でした。それで大学、社会人、プロと進むわけですが、プロ野球に入って仕事として野球をやるようになるとますます「うまくなりたい」という気持ちが強くなって。それがまず第一にありましたね。「レギュラーになって金を稼ぎたい」というよりも、「うまくなりたい」というただそれだけ。ひとつの職人ですからね、プロ野球選手も。野球の職人ですから。より高い技術を求めていった。そういったところはありましたね、うん。

今は自分のためより他人のため
 

 プロ野球にいたころは個人事業主だったわけですから、社交辞令的に「チームのために、優勝のために」とは言っても、やっぱり「自分のため」だとか、「自分さえ良ければいい」という感覚が根底にありましたね。そうしないと生き残っていけませんから。
逆にサボることだって簡単にできるわけです。「ああ、疲れたしんどい。ラクしてしまえ、ラクしてズルしたって自分に跳ね返ってくるだけだからいいよ」って感じで。

 それが四国アイランドリーグを立ち上げて、若者を集めて事業をしていくと、僕がズルすることによってこの事業は立ち行かなくなってしまうわけですね。僕が楽してしまうと、事業が立ち行かない、若者がメシ食えない、ウチの監督、コーチ、職員がメシを食えなくなってしまう。その結果、四国がダメになってしまう。

 また、人を使ったり、人を評価する立場にあるということで、「石毛が言うことならしょうがないな」といわれるような言動は必要だと思ってます。僕も以前は評価される側の人間だったわけですから、どうせならそっちの立場に立って、公平に四国リーグの監督やコーチを評価していきたい。そのためには、僕がきっちり襟を正して仕事や生活をしていかなければならないと思っています。

 だから今までのような「自分さえよければいい」という感覚ではダメで、今は地域のため、自分以外の何かのためにという気持ちが強いですね。仕事そのものは好きではないけれど、自分のやりたいことをやっているという充実感はあります。

 だけどそれが喜びだとは思っていません。自分の喜びのために汗をかいているとは思いませんし。何のために動くんだ、汗をかくんだといえば、四国のため、選手のため、選手の家族のため、監督、コーチのため、と思ってます。

 背負うものが大きくなればなるほど、人間というのは頑張れると思うんですよね。

 だから今は全くつらくないですね。周りは「何でお前はわざわざ苦労してそんなことやってんの?」とか「何でお前は好き好んでイバラの道を行くんだ?」っていうんですけど、「イバラの道なんかじゃねえよ、オレには赤じゅうたん敷いてる花道に見えるぜ」っていつも言ってます(笑)。

 まあどうなるかわならないけど、1年間やってきて、我々のやっている事業が四国の人々にとってある程度価値と感動を与えるものであるなぁという手応えは感じてきているんですね。評価して応援してくれる方々も増えてきてますし。だからうぬぼれや思い込みが激しくて、間違いじゃないんだ、これでいいんだ、今後もこれで行くんだって思ってます。頑張っていれば見ていてくれる人は必ずいるんですよね。

四国アイランドリーグのために、私財をつぎ込み、球場のゴミ拾いなど泥臭い仕事も自ら率先して行っている石毛氏。てっきり好きだからそこまでできるのだと思っていたが、現役時代から打ち込んできた野球すら「好きだと思ったことは一度もない」という言葉は衝撃的だった。さらに石毛氏は語る。「好き」という気持ちだけでは仕事を選ぶことは危険だと。
「好き」ということと
「やりたい」ということは違う
 

 本当に好きで自分のやりたいことをやって利益をあげて、社員や家族や地域社会に貢献するというのは素晴らしいことだと思います。でも仕事なんて、好きでやってる人って少ないんじゃないかな。自分の望んだ仕事ではないけれど、生活のため、家族のために仕方なくやっているって人が多いと思うんです。

 なかなかやりたい仕事なんて見つかりませんよ。巷には、「やりたいことを見つけてやれって言うけど何をやればいいかなんて簡単にわかんねぇよな」という人はたくさんいるんじゃないかな。

 でも今の若者を見てるとちょっと違うんじゃないかなと思うことがある。

 今はインターネットなどで欲しい情報がガッと入ってくる。だから耳年増になって、なんでも簡単にできるという感覚になる、もしくはこうありたいというところに最短で行きたい、最短で自分のやりたいものをつかみたいと思うようになってるんじゃないかと。

 よしんばこれだというものを見つけたとしても、やってみたけどなんか違った、やーめたといって、せっかく就職したけれど辞めてしまう。若い人の離職率は高いですよね。3年で3割の新卒者が辞めてしまう時代。

 でもそれは間違いなんじゃないかと。とても仕事は好きじゃないけど、そこに入ったら、嫌な上司や先輩もいるけど、まあガマンしてやってるか。それが2年、3年、5年、10年経つことによって、やりたくなかった気に入らない仕事でも、それなりのものが身についていくわけですね。

 その身につけたものが、最終的には他人や世の中の役に立つようなものになっているんですよ。そうなれば、ああ辞めなくてよかったなあ、最初はイヤイヤで組織の中で流されてきたかもしれないけど、こんなものがこんな人に役立つんだと、そういうものが感じられるものが絶対出てくるんですね。

 逆に好きという気持ちだけでいろいろ決めると長続きしない。好きだと思ってた仕事がいろいろ現実を知るうちに嫌いになることもある。職場に行けば嫌いなやつだっている。仕事が好きだったヤツがどうしても人間関係が合わなくて辞めてしまうこともあるわけでしょ。だからポイントを「好き」という以外に置いてみることも重要だと思います。まあ若いときはなかなか難しいんでしょうけどね。

急いでやりたいことを
見つけようとするべからず
 

 僕の場合は48歳で今のリーグを立ち上げたんですが、この歳になって初めて見えてくるものがたくさんある。

 異業種に身を投じることで、学ばなくてはならないってことがたくさん出てきた。それに応じてどんどん自分自身が変わってくる。小さいことでいえば、これまでスポーツ新聞しか読まなかった人間が日経を読むようになるとかね。アメリカに渡ったことも大きかったですね。そういったさまざまな人生経験を経ることによって、いろいろと気がついてくるんですね。

 例えば「日本人」ていうのに気づいた。世界における日本の位置づけというか役割はどういうところにあるのか。じゃ千葉県は、野球界は、農業はどうなっていくんだろうとか、だんだん気になりだしてくるわけですよ。

 こういうふうにある程度歳を取れば、それなりのものが見えてきたり、逆に今までやってきたことが「なんだ、こんなことに役立ったのか!」とか、「こんなことがプラスになったのか!」ということが分かってきますから、今度はそれを土台にして初めて、「じゃあ自分のやりたいことっていうのは何だろうか」と考える。世の中の仕組みや流れとか、自分の力量とか技術とかを分かった上で、「じゃあ、今ならこんなことができるね」っていうのが、50歳前後くらいで初めて分ってくるんじゃないかと思うんですね。

 だから、そう簡単に夢ややりたいことが見つかるわけでも実現できるわけでもないし、それを履き違えると苦しいのではないかなって思いますね。

 逆に考えすぎて身動きできなくなっている人にはとにかく何でもいいから動けって言いたくなりますね。やりたくない、動けない、分からないから仕事しないっていうんじゃ、「何甘えてるんだよ」ってことになると思います。とにかく動かないと。動かなければ何も始まらないからね。

日本プロ野球リーグとは別の全く新しいプロ野球リーグを立ち上げ、1シーズン運営してきた石毛氏。リーグから二人の選手がドラフト会議の育成枠で指名されるなど、「プロへの道筋を作る」という本来の目的も達成した。これだけでも偉業といえる結果だがしかし、石毛氏の瞳はその先の未来を見つめていた。
独立リーグをもっと作って
野球界、地域社会を盛り上げたい
 

 今後に関しては、四国アイランドリーグだけじゃだめだと思っています。野球界、地域社会の発展のためには、日本の若者を受け止められる地域リーグ、あるいはマイナーリーグがもっと必要だと思うんですね。将来的には四国アイランドリーグ以外にも独立リーグが2つ3つできて、交流戦ができるくらいまでにはならないと。ですから今後は他の地域での事業展開も考えられるかもしれません。

 でもとりあえずは、四国の方々から、「石毛ありがとうな」という一言がもらえればそれでもう満足ですよね。四国にアイランドリーグという野球ができて、地域社会よくなったなぁというのが言われるのが今一番の夢ですね。

 
2006.2.6 リリース 1 大変な仕事だけど つらいと思ったことはない
2006.2.13 リリース 2 プロは回り道だったけど やりたいことにつながった
NEW! 2006.2.20 リリース 3 仕事は自分以外の誰かのため いばらの道も赤じゅうたん

プロフィール
いしげ・ひろみち

1956年9月 千葉県旭市生まれ。少年時代から野球を始め、銚子高校時代は決勝戦で破れあと一歩のところで甲子園を逃す。大学進学は難しいと考えていたところ、駒澤大学野球部の太田監督が両親を説得、駒澤大学に進学。主将を務め、東都大学リーグ1部でチームを5度の優勝へ導く

1979年 
プロは念頭になく、プリンスホテルに入社。80年世界選手権にショートで出場。2位となる。ちなみにこのときのサードは原辰徳

1981年 
ドラフト会議で西武ライオンズと阪急ブレーブス(当時)から1位指名。西武へ入団。23年ぶりの新人3割打者となりパ・リーグ新人王を獲得。以後11回のリーグ優勝、8回の日本一に貢献。西武ライオンズ黄金時代のチームリーダーとして活躍。個人でもリーグや日本シリーズのMVPやゴールデングラブ賞など数々の賞を獲得。94年には球界3人目の2億円プレイヤーとなった。

1995年 
福岡ダイエーホークスに移籍

1996年 
現役引退

1997年 
アメリカメジャーリーグ・ドジャースへコーチ留学

1998年 
福岡ダイエーホークス二軍監督

2002年 
オリックスブルーウェーブ(当時)から要請を受け監督に。翌年シーズン半ばで監督解任

2004年 
四国アイランドリーグの運営会社「株式会社IBLJ(インディペンデント・ベースボールリーグ・オブ・ジャパン)」を設立。代表取締役に就任

2005年4月 
四国アイランドリーグ開幕。10月、全180試合の全日程を終了

2005年12月 
育成ドラフト会議でプロ野球から2名の選手が指名。正式に入団が決定


●通算成績
出場試合数1796
打率 2割8分3厘
本塁打 236本
得点 847

1981年 パ・リーグ新人王
1986年 パ・リーグMVP
1988年 日本シリーズMVP
リーグ優勝 11回
日本一 8回
ベストナイン 8回
ゴールデングラブ賞 10回
オールスター出場 14回


四国アイランドリーグ
従来のプロ野球機構(NPB)とは一線を画した、日本初の独立プロ野球リーグ。アマのプロへの登竜門、プロ野球OBの受け皿として設立。

四国四県、愛媛マンダリンパイレーツ、高知ファイティングドッグス、香川オリーブガイナーズ、徳島インディゴソックスの四チームで年間180試合を戦う。1年目のシーズンは高知ファイティングドッグスが2位に6.5ゲーム差をつけて優勝した。2位以下は徳島→香川→愛媛の順。登録選手は100名。年俸は204万。シーズンオフは仕事の斡旋も行っている。

★公式Webサイトはこちら

 
お知らせ
四国アイランドリーグ選抜
VS
読売ジャイアンツ2軍
交流戦開催決定!

 

3月18、19日、四国アイランドリーグ(4チーム)の選抜チームが読売ジャイアンツの2軍と交流試合を行います。石毛氏が育て上げたアツい若者たちの戦いぶりを見るチャンス。春の四国へ野球観戦に出かけませんか?

【読売ジャイアンツ(2軍) VS
四国アイランドリーグ選抜】

●開催日:3月18日(土)
●試合開始時刻:13時(予定)
●場所:徳島・県営鳴門球場
(徳島県鳴門市撫養町立岩字4枚61番地)
※主催:読売新聞社、報知新聞社

【四国アイランドリーグ選抜 VS
読売ジャイアンツ(2軍)】

●開催日:3月19日(日)
●試合開始時刻:13時(予定)
●場所:愛媛・西条ひうち球場
(愛媛県西条市ひうち1番地2)
※主催:四国アイランドリーグ

※問い合わせ先
●四国アイランドリーグ
TEL 087-825-9760

●読売新聞大阪本社
スポーツ事業部
TEL 06-6366-1833

魂の言葉 今は「間違いじゃないんだ!これでいいんだ!」自分から動かなければ何も始まらない! 今は「間違いじゃないんだ!これでいいんだ!」自分から動かなければ何も始まらない! 今は「間違いじゃないんだ!これでいいんだ!」自分から動かなければ何も始まらない!
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写真/bushi-HONDA
取材・構成/山下久猛(編集部)
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